大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)124号 判決 1968年3月15日

上告人

英和石油株式会社

右代表者

滝口万太郎

右訴訟代理人

山本敏雄

宮井康雄

被上告人

関西ラテックス工業株式会社

右代表者清算人

菅野茂比古

右訴訟代理人

大原篤

大原健司

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人山本敏雄の上告理由第一、二点について。

会社の破産は会社の解散事由とされているが、通常は破産宣告と同時に破産管財人が選任され、右管財人が破産財団に属する財産の管理、換価、配当等の手続を担当するため、別個に清算人を選任する必要をみないのであつて、商法四一七条一項が、会社の解散の際取締役が清算人となる旨を規定するにあたり、破産の場合を除外したのも右趣旨を明らかにしたものに外ならないのである。しかしながら、同時破産廃止の決定がされた場合には、破産手続は行われないのであるから、なお残余財産が存するときには清算手続をする必要があり、そのためには清算人を欠くことができないわけである。ところで、商法二五四条三項によれば、会社と取締役との間の関係は委任に関する規定に従うべきものであり、民法六五三条によれば、委任は委任者または受任者の破産に因つて終了するのであるから、取締役の地位を失うのであつて、同時破産廃止決定があつたからといつて、既に委任関係の終了した従前の取締役が商法四一七条一項本文により当然清算人となるものとは解し難い。したがつて、このような場合には、同項但書の場合を除き、同条二項に則り、利害関係人の請求によつて裁判所が清算人を選任すべきものと解するのが相当である。

本件において、これをみるのに、本件記録に徴すれば、被上告会社は、本訴が原審に係属していた昭和四〇年五月二七日、破産宣告とともに同時破産廃止の決定を受けたのであるから、その清算人については商法四一七条一項但書のような事情がある場合は格別、同条二項に則り裁判所に清算人選任の手続をなすべく、原審としてはその選任をまち、これを被上告会社の代表者として訴訟手続を進行すべきものであつたのである。しかるに、原審は、右と見解を異にし、被上告会社の破産と同時に、破産廃止決定があつた故をもつて当然従前の代表取締役菅原茂比古が商法四一七条一項により代表清算人となるものと解して同人を被上告会社の代表者とし、かつその委任した訴訟代理人を適法な訴訟代理人として訴訟手続を進行し、判決をしたのであるから、右代表者および訴訟代理人はいずれも必要な授権を欠いていたものというほかはなく、論旨はこの点において理由があり、原判決はその余の上告理由について判断するまでもなく、失当として破棄を免れない。そして、この点について手続を是正し、さらに審理を進める必要があるので、本件を原審に差戻すのが相当である。

よつて、民訴法三九五条一項四号、四〇七条一項にしたがい、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

上告代理人山本敏雄の上告理由

原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。その要点を摘記すれば、左の三点である。

第一点 法定代理権及び訴訟代理権の欠缺

(1) 被上告会社は大阪地方裁判所昭和三九年(フ)第二〇三号破産宣告申立事件に於て、同事件の被申立人として昭和四十年五月二十七日午後一時、同庁より「破産宣告決定並に破産同時廃止決定」を受けたものである。

(2) 破産は株式会社の解散事由であり(商法第四〇四条第一号、同第九四条第五号)、従つて被上告会社は前記破産宣告決定により当然解散し、その後、清算手続に入つたものというべきである。

(3) 商法第四一七条第一項は「会社が解散したときは、合併及び破産の場合を除く外、取締役その清算人となる」旨定める。即ち、破産による解散の場合は、解散前の取締役がそのまゝ清算人となるものではない。

然して商法第四一七条第二項は、同条第一項によつて清算人たる者なきときは、裁判所は利害関係人の請求により清算人を選任する旨定める。

被上告会社の場合、まさにこの場合に該当し、被上告会社としては非訟事件手続法に則り、裁判所に清算人選任申立をなし、その選任を得た上で代表者を決定すべきである。被上告会社は何等、右手続をとつていないから、従前、同会社の代表取締役たりし菅原茂比古は、当然、代表清算人として被上告会社を代表する権限を有するものではない。

代理と代表の行為形式に差はあつても、その権限及び効果の本質的同一性よりして、本件の場合、被上告会社に法定代理権の欠缺(民訴第三九五条第一項第四号)」あるものというべきでてる。即ち、原審は、中断すべき訴訟手続を無視してこれを続行したものであつて、違法なること明白である。

(4) 右の通り、菅原茂比古が被上告会社の正当なる代表権者でない限り、同人よりの訴訟委任を受けた原審被控訴代理人は正当なる訴訟代理権を有せず、本件の場合、原審に於て「訴訟代理権の欠缺」ありたるものである。

原審は右事実を無視して訴訟手続を進め、判決をなしたるものであつて違法なること明白である。

(5) この点につき原判決は、商法第四一七条第一項にいう「破産の場合」とは、通常の破産(管財人の選任される)を意味し、同時に破産廃止の決定がなされた場合は含まないと説示する。然し、破産廃止は、一旦なしたる破産を取消すものではなく、破産宣告決定を前提として事後の管財、配当の手続をしないことを意味するのである。同時廃止と異時廃止の差は、廃止の時期のみにあり、その効果は全く同様である。これを別異に解する理由に乏しい。

原判決は、裁判所による清算人の選任の如き迂遠な手続を強いる実質的理由は存しない旨説示するが、本件の場合、本件請求債権は実質的には破産財団を構成し、取立の暁には、正当に被上告会社債権者に配当すべきものである。然るに、被上告会社は、財産なしとして破産廃止になつているのであるから、本件請求債権の如き資産があることは、通常、債権者の知らぬことである。従前の代表取締役がそのまゝ被上告会社の代表清算人となるものとすれば、同人は、右事実を悪用し、本件取立債権額を着服する危険がある。正当なる清算を期待すれば、やはり、裁判所の選任による清算人をして清算事務を遂行せしむべきである。法は、この実質的理由よりして、破産の場合、廃止決定の有無、その種類の如何を問わず、すべて、別途、清算人を選任すべしと定めたるものと解される。

第二点 法令解釈の誤り

前記の如く、原判決は、商法第四一七条第一項に所謂「破産の場合」を誤解し、同条第二項による清算人選任手続を要する本件につき、その要なしと判断したものであつて、この法令解釈の誤りが、原判決に影響を及ぼすものであることは明らかである。<後略>

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